ひとの心の奥底にあるもの、誰も推し量れないだろう。どんなにちかしいひとであっても。
だから、ずっと心に引っかかっていました。
わかり合っていると思っていても、心の奥深いところまで触れることなど、できようもない。
心の奥にどんな葛藤を抱えているか、察することはできても、自分ごとのように感じることはできない。
わからないからこそ、思いめぐらし心配してしまう。
ずっと、そんなことを思って過ごしてきた。彼の心深くには何が起きていたかと。
いなくなってしまった後も、ずっと考えてきた。今のことのように心配していたのだ。
でもようやく時を経て、気づいた。彼の心の奥底に眠っていたであろうぬくもりを感じられるようになったから。きっと大丈夫だと思えることができて、やっと安心することができた。
おかしなことだが、彼の行き先を心配していたのだ。ひとりでさびしく過酷な旅を強いられていないだろうかと。
でもそれは違う。きっと違う。
彼は安らぎへと帰って行ったはずなのだ。
それは願いではなく、確信に近い。
いつか会えた時には、頬を両手で挟んで、もう心配させないでって言うつもりだ。
困りながら笑ってこたえる彼の顔が思い浮かぶ。 |