よしろうさんはわたしのいとこにあたる。
といってもすごくおとなで、わたしより20歳以上も歳が上だったと思う。
たまに我が家に訪れて、その時は決まって父とレコードをきいていた。
小さな部屋に寝転んで、目を閉じて、かすかに爪先を動かしながら。
シューベルトだったように思う。
色が白くて背が高い人だった。言葉を交わした記憶はないけれど、優しそうなたたずまいの人だった。
ずっと後になって、よしろうさんが死んだと知った。公園で木に掛かって自ら死んだのだった。
マコトおじさんは、ピアノがひけた。というより。ぴあの弾きだった。それを生業とした人だった。
どうしてピアノが弾けるようになったのかは謎だけど、バーやクラブで弾いていた。
ある晩、我が家に来たときにわたしの小さなオルガンを弾いてくれた。
おじさんが帰るとき、父が言った。
おい、上を向いて歩けよ。前を見てな。
おじさんは笑いながら言った。
ああ、でも下見てるとたまにはいいこともあるのさ。
それから何年後かに、どこか知らない街でおじさんは死んだという知らせが入った。
お葬式はなかった。
傍目には悲しい人生に映るけれど、本当のところはわからない。
何が幸せで、不幸かなんて誰にも決められない。
ただ、まだ10歳にも満たない幼いわたしの胸を打つ出来事だった。
よしろうさんもマコトおじさんもいったい何を見つめていたのだろうか。
何をつかもうと手を伸ばしていたのだろうか。
果たしてそこにたどり着いたのだろうか。
この世界は悲しみに満ちている。
でもそれと同じくらいに、愛にも満ちている。
嘆きうちひしがれても、見上げれば満天の星が煌めく。
風がふわりと頬を撫でていく。
朝にはやわらかな日差しが窓に差し込む。
目を閉じてあなたは
握った拳を胸にそっと押し付けるだろう。
夕には萎れてしまう青草であっても
豊かな雨に濡れてぴんとその葉を伸ばすのだから。 |