彼の写真はありません。なので、ずっと前に撮った我が家の庭の蜘蛛の巣の写真をアップ。
カフカについて学ぶ機会があった。カフカと言えば、ある朝目覚めたら、自分が虫になっているという至極奇異な状況に置かれた男グレゴールの小説「変身」が有名である。
講義の中で、どんな虫を想像するか、名めいが絵を描いてみたら、二つに分かれた。カブト虫系とクモ系である。大抵、そのように二派に分かれるそうだ。私はカブト虫系を想像したのだけれど、どちらを想像するか、性格や感性などを研究してみたら、面白い結果を得ることができるかも知れない。
さて、変身を読んだからというわけでは決してないのだが、ここ数日、いや数週間、一匹のクモと一緒に生活している。もちろん、グレゴールに同情してのことではない。
我が家にいるのは、小さな黒いクモだ。ある日、玄関ホールで彼を見つけた。よく見たら身震いするほど気持ちが悪いのだけれど、そうと分かっているので、じっとは見ない。
あっ、クモ!と気付いたけれど、すぐにやり過ごした。
騒ぎ立てなくても、じきに出て行くことだろうし、特に悪さをすることもないだろう。それどころかクモは害虫を捕獲してくれる益虫なのだ。他の虫なら、なんとか外に出そうとするのだが、クモはそのまま放置しても問題ない。
それから毎日、彼をそこここで見つける。玄関で、リビングの壁のきわ、ドアの下とかで、まだ二階には上がってきてはいないようだ。掃除していると、慌てて下駄箱の下などに逃げ込む。
毎日出会うので、だんだん愛着がわいてきてしまった。昨夜は、お風呂で、シャワーを浴びている時に見かけてしまった。私に気付いたのか、じっとして動かないでいる。水に流されてしまったら大変なので、最新の注意を払わなければならなかった。
シャワーの後も同じ場所で身動きひとつしないので、弱っているのかなあと気になったけれど、数時間後に見たらいなくなっていた。
そして、今朝、掃除機をかけていたら玄関に元気に登場、すぐに下駄箱の下へ逃げて行った。
いつまでいるつもりか、長く我が家に居座るつもりなら、名前をつけちゃおうかなんて思ったり、いやいや、名前を付けていつまでもいられても困る。
それにしても、彼には我が家は、というか、この世界はどんなふうに見えているのだろう。私が見て感じている世界とは全く違うのだろうな。空間も時間も、私が知っているのとは異なる世界に住んでいるのだろうな。
以前、草むらで跪いて必死に探しものを探ったことがあった。あの時に感じたような不思議な別世界に彼は住んでいるのだと思う。
同じここに居ても、同じにここには居ない。次元が違うのかもしれない。
馬鹿げているようだが、まことしやかにそんなことを思い巡らすこの頃、クモさんに出会ったばかりに。さて、明日も会えるかな。 |