急に事務所の移転を思い付き、1月末に思い立ったと思ったら、1回目の内覧で即断、ひと月後には引っ越し、我ながらそのスピーディな決断と行動には目を見張りました。
案の定2月から3月にかけては、物件探しから始まり、引っ越しの荷造り、荷解き、サーバーやパソコンの移転と設定、住所が変わったことによるなんやかやの手続き、もう目が回るほどの忙しさでした。
約13年を過ごした以前のオフィスは、荷物も次第に増え、仕事も段々煮詰まって来ていました。いっそのこと無駄な物は整理してしまうためにもと思い切って環境を変えたら、心機一転、新たにまた頑張る気持ちが湧いてきました。
新オフィスは建物は古いビルだけど、清潔で明るい部屋、近くには区役所、郵便局、駅からは遠くなってしまったけれど目の前にバス停、自宅からは歩ける距離、なんて素敵!
おまけに図書館まで30秒、お昼休みになるとちょくちょく通っています。最近、館内にレストランまでできて、嬉しい限りです。
さてここからが本題です。
先日のお昼休み、いつものように何を借りようかな?と書架をぐるーっと眺めて回っていた時に、ふと目に留まった本「熊とにんげん」。 「にんげん」がひらがなであることに、不思議な感じがして、借りてきました。
おどりができる茶色い熊と7つのまりでお手玉ができるにんげんのおじさんは一緒に旅をします。
おじさんの持ち物は、鉄のフライパンとひとつの音しか出ない角笛と7つのまり。
心根のいいおじさんの友だちは熊と神さま。
ゆっくりと、ひと呼吸に三歩の足取りで田舎道をあるいていきます。
ポーランド生まれのドイツの絵本作家、物語作家、挿し絵画家であるライナー・チムニクの1954年の処女作、上田真而子氏の翻訳です。
暖かいまなざしで描かれたユーモアたっぷりでしかも抒情ある黒白の線画と四季の移り変わりがとりわけ美しく綴られたなめらかな文章、物語はふたりの歩みのように静かに進んでいくのだけれど、ドラマチックな展開で息を飲むシーンもあります。
チムニクの世界にすっかり引き込まれてしまい、読み終わった後は何とも言えない切ない気持ち、けれど清々しい気持ちがじわーと湧いて来ました。
たんたんと過ぎて行く人生なのだけど、時には大変な事件、苦労、戦いも起きます。そんな時にはおじさんは神さまにお願いして、なんとか困難を乗り越えて行きます。
友だちの熊と一緒に。
熊とにんげんが心通じ合う物語、おじさんの得意は熊のことばがわかることなのです。
おじさんのようにたんたんと毎日を過ごし、ことさら騒ぎ立てることなく、困ったときには神さまの力を借りて乗り越え、ある日すーっと静かに消えるようにいなくなる、それでいいなあ、それがいいなあと、そんな風でありたいなあと思ったのでした。
ドイツ語の原題は「Der Bär und die Leute」、単純に熊と人、熊と人間、なぜ、ひらがなでにんげんとしたのか、訳者の感性が伝わってきます。日本語だからこその伝え方ですね。
「熊とにんげん」もう、絶版になってしまっているのですが、できることなら側に置いておきたい一冊です。
因みに、たくさんの素晴らしい挿し絵の中でも私のお気に入りは
51ページの「空がぱっとあかるくひらける季節」
それと、どうしてももう一つ、
61ページ「水たまりにはった 薄氷をふみわる 熊おじさんと 熊」の絵です。
もし、機会があったらぱらりとめくってみてください。 |