ついつい増えてしまうマニキュア。この夏はマットな水色がお気に入りです。
マニキュアを落として、手を見つめながら、思い出していた。
子供達が小さい頃、手をつないで行った近くのお店屋さんのおかみさんが、私の手を見て、
あーらら、なんてつるつるの手、なんにも苦労知らずの手だねって。
今はお世辞にも言えない。
それでも、色が白ければなんとかなるのだけれど、色黒のしわしわの手だ。
そう言えばと、母の手を思い出した。
若かったけれど、母の手は水仕事で荒れていたなあ。
爪を伸ばすこともなかったし、働く人の手だった。
母は今思い出すと、非常に可愛い女性だったと思う。
町の化粧品店で
「ね、みいちゃん、どの口紅がいいと思う?」
私が大人びたベージュに近い薄いピンクの方を指差すとためらいなくそれを選んだ。
でも、後日、私は心の中で、後悔したのだ。
おかあさんには、赤い口紅の方がずっと似合うって。
親戚のおねえさんの結婚式当日、
田舎の大きな家に集まり、大勢の女性達が着物を着付けたり
お化粧したりしている。
母は留袖を着て、その後、その家の鏡台にあったマニキュアを見て言った。
「つけてみようかしら」
マニキュアなんて、つけたことが無い母だった。
「うん、きっときれいだよ」って私。
でもね、時間が無くて、乾くまでの時間がなくて。
結局、きれいには塗ることができなかった。
落とす術も知らなくて、母の爪は擦れたようになってしまった。
大丈夫、大丈夫って言っていたけれど、私はつけてみたらって言ったことを心底後悔した。
たぶん、私、9歳位だったと思う。
母の人生は私なんかより、ずっとずっと短くてたったの36年間だった。
今でも、ちょっとごつごつした手を口にあてて「ふっふっ」と笑う母の顔は覚えている。
遠い昔のことだけど。 |