雪が降った日とその翌日の2日間は家で冬眠していた。
「トニー滝谷」(監督:市川準 原作:村上春樹 音楽:坂本龍一 主演:イッセイ尾形)のDVDを観た。
村上ファンとしては本当に村上春樹の空気が流れているだろうかと心配しながら、それに物語の内容から恐らく憂鬱な暗い気持ちになってしまうかもしれないことを予想しながら、でもこんな日はやっぱり映画でも観るのが一番と思って、観ることにした。
私の予想に反して、映画は完璧に村上春樹のものだった。
はかなくて美しい映画だった。映像も、音楽も、脚本いや脚本は小説そのものだった、、、
小説にはないけれど、トニー滝谷の泡を大事そうに注ぐビールの注ぎ方も小説の中ではきっとそういう風に注ぐだろうなと思えたし、ブルーのルノー・サンクを洗車する妻は優美で愛らしかったし、洋服も靴もため息が出るほど素敵でそれらを装って歩く妻役の宮沢りえもぴったりだった。イッセイ尾形の大学生役はちょっときびしい気がしたが、しかしそれを差し引いても彼はすごくいい感じだった。誰かのブログで、イッセイ尾形が村上春樹に見えて仕方ないと書いてあったのにはくすっと笑いながらも納得してしまった。
孤独って、淡々と流れて行く日常をすっぽり覆う薄い布のようなものなのだ。
時にふいに襲ってきて、あっと小さな叫び声をあげてしまうこともあるけれど、通常は気が付かずにいながら必ずそこにあるのだ。
誰にとってもそういうものなのだと思ったら、優しくいとおしい気持ちになった。
たぶん、何度となくこの映画を観ることになりそう。
「トニー滝谷」は短編集「レキシントンの幽霊」に収められています。 |